ガルブレイスの他の著作にも見られるように、彼は本書の冒頭でまず200年余に及ぶ経済学の歴史、特に影響が大きいリカード(が一番重要なようにも見受けられる)やアダム・スミス、マルサスやマルクスなどを「正統派」として取り上げ、この経済学の「正統派」の認識の射程と限界を、それらの著述の時代背景や歴史的時期から解明し、各人ともそれほど同時代の他の学者に比べて新しくないけれど、ある視点(perspective)を広めるのに大いに役立ったと断じている。だから、『ゆたかな社会』を読んでいると、アダム・スミスやマルサスよりも、リカードやマルクスがなんとなく、言及されることが多い感じがする。ここで、重要な概念が「通念」と彼が呼ぶものであって、これは学者や一般人が当たり前に思っている「常識」に近いものだろうか。つまり、科学技術の発達や生産性の飛躍的向上が経済や市場の実態を大きく変えたにもかかわらず、土地の概念が狭いヨーロッパやイギリスに限定されていた、リカードやマルサスが持っていた、人間が増えると貧農が増えるか、人間は食えなくなって死ぬという、経済学の「通念」の「暗さ」を彼は個別具体的な歴史的条件に制約されたものとして批判的に捉えている。ガルブレイスはカント的というよりはヘーゲル的なのだろう。ヘーゲル的といえば、「暗い」世界観の王様、マルクスを捉えてガルブレイスの慧眼は、マルクス主義と知識人の教条主義的関係なゆがんだ関係を冷ややかにパスしつつも、イデオロギーとしてのマルクス主義ではなく、社会科学としてのマルクスをきちんと切り出し、的確に再評価を下している。
(次回へつづく)
ジョン・ケネス・ガルブレイス著(2006/1998)『ゆたかな社会』岩波現代文庫(社会137)
J. K. Galbraith (1998/1958) The Affluent Society, Boston: Houghton Mifflin
J. K. Galbraith (1998/1958) The Affluent Society, Boston: Houghton Mifflin
渡部 淳 わたなべ まこと 総合政策・国際政策文化2期生
北海道文教大学 専任講師
0 件のコメント:
コメントを投稿